神楽坂のオフィスで、不定形なプロジェクトをかたちにしていく
- 2025年から神楽坂に小さなオフィス拠点を持ち、フリーランス3人で週に数日集まって働くようになった。
- クライアントも交えた共同制作を通じて、「まだ言葉になっていない課題」や不定形なプロジェクトの輪郭を定めていくことはスリリングで面白い。
- 編集とデザインを行き来しながら、媒体選定やリファレンス提示で収束をリードし、成果物として成立させる。

神楽坂の小さなチーム拠点で、共同制作のモードが戻ってきた
昨年(2025年)から神楽坂のオフィスを使っている。ただし所属などが変わったわけではなく、これまで通りフリーランスの身であるが、週に2〜3日ほどは通っている。これまでは基本的に自宅で作業していたため、同じ場所に通い詰めるだけでも新鮮さがある。家から30分足らずで着くのでアクセス上の不便もない。
この場所は、自分を含めて三名のフリーランサーで利用している。プロマネ(PM)に強いディレクター/編集者の瀬下翔太と、コピーライティングやコンセプト立案に強いライターの松本友也と、そして自分の三名だ。彼らとは学生時代から長いあいだ制作をともにしてきたが、仕事面ではコロナ禍の頃からそれぞれのフリーランス業に注力し、互いに受発注はあってもインテンシブに協働するモードからはやや遠ざかっていた。

しかし、2025年4月頃から同じオフィススペースを共有し、『FASTFORWARD』という雑誌をいっしょに作った。このプロジェクトではクライアントのナカジ氏が編集長のかたちで編集部にも参加し、われわれ三人と制作をともにした。そうしているうちに、コロナ以前のような濃密なコミュニケーションを伴う共同制作のモードが戻ってきたように感じている。

プロジェクトの「かたち」を見つける共同作業
瀬下・松本両名にはそれぞれいろいろ得意なことがあると思うが、プロジェクトをいっしょにやるうえで、わたしがとりわけ助けられているのは次の点だ。二人はヒアリングのなかで、クライアントがプロジェクトとして「実現したい状態」や「解くべき課題」を、いっしょに言葉にしていくのが上手だ。そして、それをコンセプトのかたちにまとめ、関係者が前に進める仕様や方向性に仕立てることも。
というのも、プロジェクトを発注する側が、いつも明確に「やりたいこと」を言語化できているとは限らないため、コンセプトを磨くことに意味が出てくるのだと自分は理解している。ここで発注者側の事情を想像してみたい。
おおくの場合、予算やスケジュールは決まっており、上長・関係部署・ステークホルダーからの期待や要件もある。その一方で、現状の課題は複合的で、解き方や伝え方(=アウトプット像)はひとつに定まりにくい。そんななかで「こういう状態にしたい」「ここを変えてみたい」という芽が生まれてきた。でも、このプロジェクトの本質や成果物はなんなんだろう? 頼めそうなディレクターやコンセプターのアテはあるけれど──。
つまりこれは、能力の不足というより、組織的な制約のもとで「まだ言葉になっていない課題」を扱いながら意思決定していく難しさだと思う。だからこそ、外部のパートナーがいっしょに整理し、合意形成できるかたちを整えていくことに価値があるのだろう。
そういう状況でプロジェクトが持ちこまれたとき、二人はクライアントの言に耳を傾け、制約条件と目指す状態とのあいだでバランスを取りながら、ああでもないこうでもないと議論を深めていく。「要するに、とりあえずで言うとこういう方向性ですかね?」という具合にイメージをいったん仮置きし、関係者の反応を見ながら精度を上げていく。この種のクライアントコミュニケーションを、共同主観的と形容してもいいし、探究共同体とも、彫刻的プロセスとも言えるだろう。わたしはこの二人の仕事ぶりを、内輪ながらリスペクトしている。
プロジェクトの収束をリードする
そんな二人と同じ空間を共有してインテンシブに仕事をしていると、〈いまだかたちの伴わない不定形なプロジェクト〉に──商流で言えば──なるべく上のほうから関わることは、いかにも楽しいことだと思えてくる。
そして、どうやら自分のほうにも、二人に対して貢献できそうな点がある。プロジェクトにさらに明確なかたちを与え、クリエイティブ[1]を成立させるところだ。
クライアントに伴走してプロジェクトのイメージを(再)発見したあとは、わたしも積極的に議論に参加する。そのとき留意するのは、プロジェクトのタッチポイントを腑分けし(知的で学術的で言語的なコミュニケーション? 情感に訴えかけるビジュアル戦略? 手触り感ある物質的なつながり?)、出力するメディアを選定し(雑誌? オウンドメディア? Podcast? 展覧会?)、既存のクリエイティブに引きつけてテイストやトンマナを理解し、リファレンスを提示することで、クライアントとチーム内でイメージをさらに定着させていくことだ。
ここでの自分の職能は、言ってみれば 〈らしさあるモノ(things-as-though)〉 を提案しているような感じかもしれない。 「発散―収束」における収束をリードする 役目[2]でもあるし、さらに格好つけて言えば、アーキタイプへの還元、メディアコンサル、シミュレーショニズムあたりの概念も関係しそうだ。
その種の提案ののち実制作に入ってからは、もっとずっと混沌としたプロセスが待っている。クライアントにくわえて瀬下・松本の二人とともにその混沌に分け入っていくのはときにスリリングだが、だんだんと全員が一体となった「制作チーム」として舵を取っている感覚になってくる。その感覚が得られると、そのプロジェクトはもう成功の軌道に乗ったと言えると思う。
本筋でないため註のかたちにしたが、「クリエイティブ/creative」という形容詞の名詞的用法について抵抗があるひとたちもいるかもしれない。厳密に言えば、わたしが提案しているのは英語の名詞で言うところの「deliverable」(成果物)であると理解している。 ↩︎
ここで既存の商流を示す言葉を用いないことには一応の理由があったりする。感覚的な物言いにはなるものの、クリエイティブディレクションよりは下流でアートディレクションよりは上流に位置する役割を想定している。 ↩︎
デザインと編集、ノマド的実践とアマチュアリズム
収束をリードする、と先に書いた。そういう職能だからか、わたしはデザインも編集もやり、一応どちらの役割でも最終納品物を作ることがある。この文章を読んでくれている読者に対して、自分がデザイナーとして自己紹介をしたのか、もしくは編集者としてだったのか、わからないが、じつはどちらの面も持っている。
ふりかえってみると、アウトプットもいろいろだ。雑誌や企業広報誌など、ページものの紙面やPDFを作ることもあれば原稿も書くし、パワーポイントのフォーマット、最近だと配信番組の画面レイアウトなんかもあり、Podcastや配信そのものもある。──こう列挙してみると、いろいろとマルチモーダルに専門性があるように映るかもしれない。しかし、率直に言うといつも「なんとかやっている」というのが実情だ。
なんとか成立させること。これに関連して、デザイン研究者のロン・ワッカリーは興味深いデザイン観を打ちだしている。曰く、デザインとは「ノマド的実践」なのであり、ジェネラリスト的な職能をそう表現している。デザイン実務には〈志向性の多重性〉や〈状況に置かれて知っていくこと〉がしばしば伴い、ノマド的にさまざまな専門性を繋いでいくというわけだ。

じつは、ほとんど同じことを編集者の若林恵が一種の職能論として書いている(ようにわたしには読める)。「シロウトのプロ」というエッセイで、要するに、編集者は「ぶっちゃけなんの専門家でもない」 のだが「主観と客観を行き来することで、書き手やクリエイターたち(中略)を社会化することができる」、と言う。やや強めに読解するなら、プロ的な深みではなくシロウト的な表層に留まることで、社会化のための接触面となれること。こうした逆説を、自分はアマチュアリズムという概念で理解している。

ノマド的実践ないしアマチュアリズムとして理解される、カギ括弧付きで留保含みの「専門家」。自分の専門性はそういうところにあるのだろうと最近は考えている。だから、特定のメディアや型通りのアウトプットにこだわることなく、ある種のオープンクエスチョンに答えていくように頭を使うこと、「制作チーム」一丸となって不定形のプロジェクトに向きあうこと、共同でかたちを与えていくこと、そのすべてに面白みを感じる。
今後のこと
ところで、冒頭に書いたオフィスについてはなんとなく「神楽坂のオフィス」などとみんなで呼びあっていて、固有名にはなっていない。だけど、今後はこの場所に名前をつけ、瀬下・松本と共同のポートフォリオを整えていくような展開も準備している。二人とはさらなる協業を進めていくつもりだ。
だからもし、これを読んでくれているひとで神楽坂近辺に出向くことがあれば、立ち寄ってほしい。プロジェクトの種があれば、それもぜひ持ちこんでみてほしい。不定形なプロジェクトをかたちにしていくことの──おおげさにはなるが──冒険的な歩み、それをともにできる機会を、ここでわたしたちは待っている。

もし「どこから相談したらいいんだろう」と思った方がいたら、以下のような段階からでも、お気軽にご連絡ください。
- まだ言葉になっていない課題を、いっしょに整理して企画の輪郭を作りたい
- 媒体(紙/ウェブメディア/配信/イベント等)を決めるところから相談したい
- 社内説明や合意形成のために、方向性とアウトプット像を仮置きして前に進めたい
- すでに素材はあるので、編集やデザインで成果をまとめるリードをしてほしい
- まずは短い壁打ち(オンライン可)からでもお申し付けください



